【語り手/クォン教授】
ヤン・フー・クォン。テキサス女子大学教授。専門はバイオメカニクス。生体力学的に理に適ったスウィングを研究。教え子にタイガーの元コーチ、クリス・コモらがいる
【聞き手/吉田洋一郎プロ】
よしだ・ひろいちろう。D・レッドベターをはじめ、世界の名だたるコーチのもとを訪れ、最新理論を直接吸収。日々探究・研鑽に余念がないゴルフスウィング研究家女性こそ地面反力
上半身と下半身のセパレート
吉田 前回、先生はトップで「間」を作ってはいけないとおっしゃっていました。
クォン そうだね。トップで「間」を作ると、バックスウィングの意味がなくなってしまう。
吉田 そうなると、われらが松山英樹選手のスウィングは、反力打法的にはあまりよろしくないということでしょうか。
クォン そんなことはない。マツヤマのスウィングは、反力打法的にもとても良いと思う。
吉田 でも、松山選手はトップで止まっているように見えます。
クォン マツヤマの場合は、リズムがゆっくりだから止まって見えるが、私はあれを「止まっている」とは考えない。トップに到達する直前に、左足を踏み込み、体重がしっかりと左に移動している。上半身と下半身がセパレートされている証拠だね。

ILLUST/Kazuhisa Uragami
吉田 上半身と下半身がセパレート?
クォン そう。これも、スウィングスピードを効率的に高めるには不可欠なポイントなんだ。「Xファクター」という言葉は知っているね。
吉田 ええ。スウィングを頭の上から見たときに、トップで腰が回る角度と、肩が回る角度では肩のほうが大きい。このとき、腰の線と肩の線が「X」状に交差するから、「Xファクター」。このXファクターが大きいほど、上半身と下半身の捻転差が大きくなる……あ、これがセパレートということですね。
クォン うむ。バックスウィングがまだ続いている段階で、下半身が逆向きに動き始めることで、より捻転が強くなる。トップでクラブが止まって見える瞬間があるが、このときにはすでにセパレートされた下半身が動き始めているから、「止まっている」わけではないんだ。
吉田 なるほど。逆に「止まって見える」見た目だけを真似ようとして、意識してトップで止まろうとするのは、本末転倒というわけですね。
クォン そのとおり。前回話したように、それではカウンター動作が使えないから、せっかくのバックスウィングが無駄になってしまう。
吉田 上半身と下半身がセパレートされていれば、「間」は意識して作らなくても、自然とできるものなんですね。
上半身と下半身がセパレートされていることが大事
真上から見ると、トップで腰のラインと肩のラインが「X」状に交差することから、上半身と下半身の捻転差のことを「Xファクター」と呼ぶ。切り返しで腰が肩より先に逆回転を始めることで、捻転差はより大きくなり、Xファクターが強くなる。

縦軸・前後軸・飛球線軸
クォン これまでは、体の正面側から見た回転について論じてきた。でも実は、地面反力が生み出す回転力には、3つの種類があるんだ。
吉田 正面から見ると、スウィングはへそのあたりを中心とした、反時計回りの回転運動に見えますが、これだけではないんですか?
クォン 正面から見た回転は、体の重心を中心にした「前後軸」の回転運動。ではドローンを飛ばして、頭の真上からスウィングを見ると?
吉田 あ、俯瞰で見ると、地面から垂直に伸びた軸を中心とした回転に見えてきますね。
クォン そう。これが2つ目の「縦軸」の回転運動。次週説明するが、この回転にも実は地面からの反力が大きく関わっている。
吉田 なるほど。たしかにスウィングプレーンは斜めに傾いた円ですから、この前後軸と縦軸の2つの回転が組み合わさっているというのはよくわかります。ですが、どうしても3つ目の回転が見つからないんですが……。
クォン 3次元の軸は、x軸とy軸、そしてz軸が必ずあるね。とすると、最後の回転軸は?

地面反力が生み出す3つの回転力
吉田 ええと、体の前後方向の軸と、縦方向の軸、もうひとつは……飛球線方向の軸ですか?
クォン そのとおり。そして地面反力はこの3つの軸に対し、すべて反時計回りの回転力を生み出している。
吉田 ちょっと待ってください! 前後軸と縦軸はわかりますが、飛球線方向の軸については、とても回転力が働いているようには思えないのですが。
クォン え、そう?
吉田 いやいやいや。だって、飛球線方向の軸を中心に反時計回りに回るということは、鉄棒を握って逆上がりしているようなものですよね。スウィング中にそんな力が働いたとしたら、後ろにそっくり返っちゃうじゃないですか。
クォン うん。そこがポイントなんだよね。
吉田 ……?
クォン ダウンスウィングで、クラブヘッドには強い遠心力が働く。遠心力は、回転の外側に向かって働く力だから、放っておくと、ヘッド側に引っ張られて体が前に倒れてしまう。そうすると、上手くインパクトできないよね。
吉田 そうか。遠心力に拮抗するための力として、この第3の回転力が役立つわけですね。
クォン 体とボールの距離を保って再現性をアップ。こんなところでも地面反力は暗躍しているんだ。
⑥吉田洋一郎の前後軸を体感するドリル「Dr.クォンの反力打法」
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